連載記事その7『“品質”がもたらす価値とは』小原 好一 氏(前田建設工業)

 

 

「“品質”がもたらす価値とは」

前田建設工業株式会社
顧問 小原 好一 氏

 

ジャパンブランドの代名詞といえる“品質”への信頼を揺るがす問題が、近年繰り返し発生しています。その背景には、多数の要因が連関していると考えられますが、私は、経営者のコミットメントの変化が影響しているように思えてなりません。

 

世はまさにSociety5.0と称される転換期にあり、激変する社会環境に適応し、成長への道筋を見出すために、経営者はDX推進などの革新戦略に注力しています。その中にあって、“品質”への認識は、経営の基盤として欠くことのできない課題であるものの、競争優位の戦略には位置付けていない企業が増えているように感じています。

 

私は、上述の認識に対して、2つの誤解があると考えています。

 

1つ目の誤解は、「革新」と「基盤」のウェートです。革新ばかりに目を向け、基盤に関わる事項は部下任せにしていると、いつしか優先順位が後回しになり、仕組みは形骸化し、気付いた時には取り返しのつかない「ゆでがえる現象」が生じます。ゆえに、革新同様に、基盤に相当する課題にも戦略があり、経営戦略の両輪として推進することが望まれます。

 

2つ目は、“品質”に革新的要素が無いという誤解です。「かつては“品質”が差別化要因であったが、現在はそうではなくなった」という声を耳にしますが、“品質”の対象をモノづくりに特化しているとこのような認識に至ります。しかし、これからの時代は、モノと貨幣の交換によって生じる価値から、ユーザーの体験から得られた成果としての価値が主流となります。従って、製造業、サービス産業などの業種を問わず、顧客体験(Customer Experience)の質を向上するための活動そのものが革新戦略であり、顧客の感動・歓喜を創出する「エクセレントサービス」に加えて、顧客との共創を実現するための「オペレーション改革(生産革新)」が、これからの時代の“品質”として開拓すべき分野であると確信しています。

 

以上のような誤解を払拭し、“品質”がもたらす価値を正しく認識することが、社会の発展に大きく寄与すると考えられるものの、一個人、一組織、一団体が力の限りを尽くしても、社会に広く定着するには至らない現実を受け止めなければなりません。

 

そこで「JAQ」です。“品質”に対する産業界、学術界の総意を取りまとめ、社会に訴求し、あるべき姿へ導く存在として、JAQの躍動を待望しています。そして、ジャパンブランドとしての“品質”が、絶えずフロンティアを創出し、将来に亘って盤石であることを心より願い、私からのメッセージの結びとさせていただきます。